室温で高感度センシングを実現 新規「ベルト状VO
(B)単結晶」ガスセンサー材料を創製 ─実験と理論計算でVO
(B)の高度機能性の本質を解明─ | JAIST 北陸先端科学技術大学院大学
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室温で高感度センシングを実現 新規「ベルト状VO
(B)単結晶」ガスセンサー材料を創製 ─実験と理論計算でVO
(B)の高度機能性の本質を解明─
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室温で高感度センシングを実現 新規「ベルト状VO
(B)単結晶」ガスセンサー材料を創製 ─実験と理論計算でVO
(B)の高度機能性の本質を解明─
国立大学法人東北大学
国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
国立大学法人大阪大学
室温で高感度センシングを実現
新規「ベルト状VO
(B)単結晶」ガスセンサー材料を創製
─実験と理論計算でVO
(B)の高度機能性の本質を解明─
【ポイント】
一次元の五酸化バナジウム(V
)ナノファイバーを出発材料として、水熱還元法
(注1)
により、ベルト状VO
(B)単結晶の合成に成功しました。
合成したVO
(B) 結晶は、合成前と比べて、揮発性有機化合物(VOC)の一種であるエタノールの検出感度が、室温で約19倍向上すると共に、他のガスに対する選択性も飛躍的に高まりました。
密度汎関数理論(DFT)計算により、VO
(B)の特異な表面構造がエタノール分子を強く吸着させ、効率的な電荷移動を促進することが、この性能向上の要因であることを初めて明らかにしました。
低消費電力・高性能センサーデバイスの実現により、環境モニタリング、産業安全、健康管理など多岐にわたる分野での応用が期待されます。
低消費電力・高性能ガスセンサーの実現には、室温で揮発性有機化合物(VOC)を高感度・高選択的に検出する新材料の開発が不可欠です。
東北大学多元物質科学研究所の殷澍教授(同材料科学高等研究所(WPI-AIMR)連携教授 兼務)、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)サスティナブルイノベーション研究領域の
本郷研太准教授
、大阪大学産業科学研究所の関野徹教授、北京科技大学 材料科学と工程学院の曹文斌教授、台北科技大学材料資源工程系の邱德威教授らを中心とする国際共同研究グループは、一次元V
ナノファイバーを原材料として、水熱還元法により、配向したベルト状VO
(B)単結晶の合成に成功しました。合成したVO
(B)材料は、合成前のナノファイバー状V
材料と比べて、室温におけるエタノールガスへの応答が約19倍に向上し、優れた選択性を示すことを確認しました。この卓越した性能の起源を解明するため行ったDFT計算の結果、VO
(B)はV
よりもエタノール分子をはるかに強く吸着し、より多くの電荷移動を引き起こすことが分かり、実験で観測された感度向上を理論的に裏付けるメカニズムを明らかにしました。
本研究成果は、室温動作が可能な次世代低消費電力ガスセンサーの実現に向けた、新たな材料とその設計指針を提供するものです。
本成果は、2026年2月16日(現地時間)に、国際科学誌 ACS Sensorsのオンライン版に掲載されました。
【研究の背景】
産業活動および自動車交通量の増加に伴い、VOCは都市大気汚染の主要な発生源の一つとなっており、大気質の悪化だけでなく、人体健康への脅威ともなっています。中でもエタノールは、工業生産から日常生活に至るまで広く使用される有機化合物です。大気中エタノール蒸気への高濃度・長期的な暴露は、呼吸器系の不調、頭痛、さらには肝機能への悪影響を引き起こす可能性があります。このため、環境モニタリングや公共安全の分野において、エタノールをはじめとするVOCを迅速、正確、かつ信頼性高く検出する技術の確立は、重要課題となっています。
現在広く用いられている金属酸化物半導体ガスセンサーは、高い感度を得るために通常数百度(200~400℃程度)の高温動作を必要とします。この加熱動作は消費電力を大幅に増大させ、バッテリー駆動が前提となる携帯機器や、IoT(Internet of Things)センサーネットワークへの実装における障壁となっています。
バナジウム酸化物は、多様な組成と構造を持つ無機材料群であり、様々な原子価をとるバナジウム元素が、複数の安定または準安定な結晶構造を形成します。これらはガスセンシングの分野で高い応用ポテンシャルを示してきました。中でも、V
は安定性に優れ、合成が比較的容易であることから、最も研究が進められてきたバナジウム系ガス検知材料の一つです。低次元(0次元、1次元、2次元)ナノ材料は、その特異な構造に起因する物理的・化学的・電子的特性から、触媒や高性能ガスセンシング材料として極めて有望視されています。特に、これらの材料は非常に大きな比表面積を有することが大きな特徴です。さらに、低次元構造のエッジ部(端部)は、ガス分子吸着の活性サイトとして機能することが多く、このエッジサイトを意図的に制御・露出させることで、優れた機能性の発現が強く期待されています。
をベースとした材料も、依然として高い動作温度への依存から脱却できず、低消費電力アプリケーションの要求を満たすには至っていません。一方、VO
(B)相は、層状低次元構造と優れた表面反応性を持つ、極めて有望な室温気体検知材料として期待されています。本研究グループは、この単結晶ベルト状VO
(B)に着目し、その卓越した室温ガスセンシング性能の解明を通じて、次世代の低消費電力・高性能VOCガスセンシング技術の発展に寄与する新たな道筋を提示することを目的としています。
【今回の取り組みと研究成果】
本研究では、水熱合成を用いてV
ナノファイバーを調製し、これを前駆体としてさらにベルト状VO
(B)単結晶を合成しました。まず、市販のV
粉末を水溶液に分散させ、過酸化水素を添加・攪拌し、赤褐色のV
ゲルを得ました。このゲルを密閉オートクレーブ容器に入れ、水熱処理を施すことでアスペクト比の高いV
ナノファイバーの合成に成功しました。得られたV
ナノファイバーを洗浄し、エタノール-水混合溶媒系中に加えて水熱反応させることにより、ベルト状VO
(B)単結晶材料が得られました。
水熱反応で合成されたV
ナノファイバーおよびベルト状VO
(B)のXRD(X線回折)パターン、その走査型電子顕微鏡(SEM)イメージ、電子線回析パターンを(図1)に示します。V
ナノファイバーは、斜方晶系V
(空間群Pmmn, JCPDS No.77-2418)に特徴的な回折ピークを示し、ピークは鋭く明瞭であり、高い結晶性を有することが確認されました。V
ナノファイバーは均一な一次元繊維状形態を示し、表面は平滑でアスペクト比が高く、ファイバー長は非常に長く数十マイクロメートル以上に達し、電子線回折(SAED)パターンは、鮮明な回折スポットを示しており、単結晶性を有することを確認できます。一方、合成したVO
(B)粒子の形態を(図1(d))に示し、粒子は表面が平滑なベルト状(帯状)の比較的均一な形態を呈しており、VO
(B)の回折ピークは2
=14.33°、28.96°、44.11°に現れ、これらは単斜晶系VO
(B)(空間群 C2/m, JCPDS No. 81-2392)の(001)、(002)、(003)面にそれぞれ対応しています。(00l) 面(l=1,2,3)に由来する一連のピーク以外に他の回折信号は観測されなかったことから、合成されたサンプルが純度の高いVO
(B)単一相であり、かつ結晶が強く(00l)面に配向していることが明らかになりました。SAEDパターンより、得られたVO
(B)も単結晶構造であることを裏付けています。代表的な粒子の長さは数マイクロメートルに達しました。
およびVO
(B)ナノファイバーにおける様々なガスセンシング機能評価を行いました。(図2(a)および(b))は、それぞれV
とVO
(B)ナノファイバーの室温における硫化水素(H
S)、アンモニア(NH
)、アセトン(C
O)、エタノール(C
OH)に対するセンシング応答を示しています。V
ナノファイバーセンサーは選択性に乏しく、その応答値もVO
(B)センサーに比べて顕著に低いことが分かりました。一方、VO
(B)ナノファイバーセンサーは、各種ガスに対する応答が向上し、エタノールに対して最も顕著な感度を示し、硫化水素(H
S)、アンモニア(NH
)、アセトン(C
O)に比較して優れた選択性を示しました。
(図2(c)および(d))は、V
およびVO
(B) ナノファイバーからなるセンサーのエタノールに対する室温での濃度依存応答曲線を示しています。V
ナノファイバーセンサーの応答は全体的に低く、100 ppmエタノール条件下でも最大応答は約1%に留まりました。一方、VO
(B) ナノファイバーセンサーの応答はエタノール濃度の増加に伴って明らかに増大し、良好な濃度依存性を示しました。エタノール濃度が10、20、30、40、50、100 ppmの時、センサー応答値はそれぞれ1.5%、3.0%、4.8%、6.6%、8.4%、18.9%に達し、ほぼ線形の応答増加傾向を示しました。
VO
(B)のセンシング性能向上の要因を分析するため、密度汎関数理論(DFT)計算による検討を行いました。まず、エタノール分子とV
/ VO
(B)表面との間の吸着エネルギー(
ads
)を以下の式により計算しました。
system+gas
は気体分子吸着後の物質系の全エネルギー、
system
gas
はそれぞれ物質および単一気体分子のエネルギーです。
ads
が負の値は発熱過程、すなわち熱力学的に有利な吸着を意味します。計算結果から、エタノールのV
表面への
ads
は-0.27eVであるのに対し、VO
(B)表面では-1.13eVとなり、VO
(B)上の吸着エネルギーがV
の4倍以上となりました。これは、VO
(B)がV
よりもエタノール分子をはるかに効率的に捕捉できる能力を持つことを示唆しており、ガス検知性能が向上していることが説明できます。
(図3)は、V
およびVO
(B)の(001)表面上でのエタノール分子の最適化吸着構造モデルと、対応する電荷密度差の図を示しています。黄色の領域は電子密度の減少(電子の供出)、青色の領域は電子密度の増加(電子の受容)を表します。VO
(B)表面近傍に青色領域が現れていることは、エタノール分子からVO
(B)表面への電子移動(供出)が起こっていることを示唆しています。吸着前後の電荷移動量(ΔQ)は、電子密度分布に基づいて原子ごとの電荷を分割・積算するBader電荷解析によって得られた吸着前の単一エタノール分子の総電子数(
before
)と吸着状態のエタノール分子に対して電子数(
after
)の差として定義されます。
解析の結果、吸着によりエタノール分子からVO
(B)表面へ移動する電荷ΔQは約0.07e⁻であり、これはV
表面への電荷移動量0.02e⁻と比較して約3.5倍大きい値でした。これらの実験および理論的知見を統括し、VO
(B)がV
に比べてエタノールに対して約19倍もの高い応答を示す原因は、材料表面における分子の「強い吸着能力」と「効率的な電荷移動」という二つの要素が協奏的に作用することで、VO
(B)は室温において極めて高いエタノール検出性能を実現していることが明らかになりました。
【今後の展望】
今後、ナノファイバー状VO
(B)の構造と表面特性に焦点を当てた体系的な研究をさらに進め、元素ドーピング、表面修飾、微細構造制御などの手法を用いて、室温条件下におけるそのガス検知性能の更なる向上を目指します。同時に、対象とするターゲットガスの種類を拡大し、多種多様なVOCや、実際の複雑な環境ガスに対する検出能力を詳細に評価していく予定です。応用面では、超小型センサーデバイス設計を実現し、VO
(B)材料の低消費電力・高集積化を目指し、環境モニタリング、産業安全、健康管理など、多岐にわたる分野での応用可能性を探求していきます。
図1. V
ナノファイバーとVO
(B)のXRDパターン(a,b)、SEMイメージ(c,d)と電子線回析SEADパターン(e,f)
図2. (a) V
ナノファイバーおよび (b) VO
(B)ナノファイバーを用い、室温における硫化水素(H
S)、アンモニア(NH
)、アセトン(C
O)、エタノール(C
OH)に対するガスセンシング特性。(c) V
ナノファイバーおよび (d) VO
(B)ナノファイバーの室温におけるエタノール(10-100 ppm)に対する応答曲線。
図3.(a) V
および (b) VO
(B)のTEMイメージ、エタノールに対する応答値、及びそれぞれの(001)面に吸着したエタノール分子の電荷密度の差。
【謝辞】
本研究の一部はJSPS科研費基盤(JP20H00297、JP25K22291)、日本板硝子材料工学助成会、加藤科学振興会(KS-3714)、東北大学多元プロジェクト、 NTUT TU ジョイントプロジェクト(NTUT-Tohoku-114-02)、および「人と知と物質で未来を創るクロスオーバーアライアンス(文部科学省)」の支援を受けて実施されました。本研究に関連する論文は『東北大学2025年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』によりOpen Accessとなっています。
【用語説明】
注1. 水熱還元法:材料合成手法である「水熱法」の応用の一つです。密閉容器(オートクレーブ)内で水を高温・高圧状態にすることで、通常の条件では得られない特異な反応場を創出します。この環境下で、金属塩や金属酸化物などの前駆体と、有機物などの還元剤を反応させると、還元剤から金属イオンへ電子が供与され、還元反応が進行します。その結果、金属ナノ粒子や特定の低酸化状態を持つ金属酸化物といった、粒径が均一で結晶性の高い機能性ナノ材料を合成することができます。反応温度、時間、pH、添加剤を調整することで、粒子のサイズや形状(ナノ粒子、ナノワイヤ、ナノシートなど)を精密に制御できる点が大きな特徴です。このため、触媒、電池電極材料、磁性材料、バイオメディカル材料など、幅広い先端分野における高性能材料の作製に、重要な手法として利用されています。
【論文情報】
タイトル
Superior Room-Temperature Gas Sensing Performance of Belt-like VO
(B) over 1D V
Nanofibers
著者
Qiuyu Cheng, Lei Miao, Peng Song, Qiuyu Jin, Ayahisa Okawa, Takuya Hasegawa,
Kenta Hongo, Fu Tang, Wenbin Cao, Te-Wei Chiu, Tohru Sekino, Shu Yin*
*責任著者
東北大学多元物質科学研究所 教授 殷澍
(同大学 材料科学高等研究所(WPI-AIMR)連携教授 兼務)
掲載誌
ACS Sensors
DOI
10.1021/acssensors.5c03743
URL
【研究チーム】
東北大学 多元物質科学研究所:
殷澍 教授(同大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)連携教授兼務)、
程秋雨大学院生・金秋宇大学院生(同大学環境科学研究科先端環境創成学専攻)、
同大学研究所 苗磊助教・宋鵬助教、大川采久助教、長谷川拓哉准教授
北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)サスティナブルイノベーション研究領域:
本郷研太 准教授
北京科技大学 材料科学と工程学院:
唐馥(Fu TANG)准教授(東北大学多元物質科学研究所客員研究員)、曹文斌(Wenbin CAO)教授
台北科技大学材料資源工程系:
邱德威(Te-Wei Chiu)教授
大阪大学 産業科学研究所:
関野 徹 教授
令和8年2月19日
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