View metadata, citation and similar papers at core.ac.uk brought to you by CORE 子どもの最近接発達領域を考慮した授業構成の検討 ─  小学校第5学年国語科における実践を踏まえて  ─ TheExami nat ionont heCont ent soft heCl assGi vingSpeci alCons ider ati ont oChi ldr en’ sZone ofPr oxi malDevel opment ,Bas edont heEducat ionalPr act iceoft he5t hGr adeJ apanes eCl ass 皆川 直凡,横山 武文 MI NAGAWANa ohi roa ndYOKOYAMATa kef umi 鳴門教育大学学校教育研究紀要 第32号 Bu lle ti nofCe nte rfo rCo lla bor ati oni nCo mmun ity Na rut oUn ive rsi tyo fEd uca ti on No 32,Fe . b., 2018 鳴門教育大学学校教育研究紀要 32,37-44 原著論文 子どもの最近接発達領域を考慮した授業構成の検討 ─  小学校第5学年国語科における実践を踏まえて  ─ TheExami nat ionontheContent soft heCl assGivingSpeci alConsiderat iont oChi l dren’sZone malDevel ofProxi opment ,Basedont heEducat ionalPract iceoft he5t hGradeJapaneseClas s 皆川 直凡*,横山 武文** * 〒772-8502 鳴門市鳴門町高島字中島748番地 鳴門教育大学 ** 〒770-0203 板野郡北島町中村字長池17-3 北島小学校 MINAGAWANa ohi ro* andYOKOYAMATa kef umi** * Na r utoUnivers it yofEd uca ti on 74 8Na ka ji ma ,Taka shi ma,Naru to- ch o ,Na rut o-sh i,772- 8502,Japa n ** Kit aji maEl ement arySchool 17-3,Na gaike ,Na k amu r a,Ki ta ji ma - cho,To ku shima,770- 0203,Japa n 抄録:小学5年生を対象に物語教材「手ぶくろを買いに」の授業を行い,児童が紙芝居の読み聞かせ や精読をとおして,作者の表現意図を読み取り,考えたことや感じたことを表現できるようにするこ とを目指した。作者の気もちや考えを読み取る活動から,作者が表したかった心情を深く考える機会 をもち,共感しながら話合いを進められるように支援した。ワークシートへの記入と発表により,教 育効果を確認した。 キーワード:最近接発達領域,読解力,表現力,社会的相互作用,能動的学修 Abstract:Inthisst udy,aut hor stakeJapane seclas su s ingKamis hibaiin5t hg r ad eatelement aryschoo l. Fir st ly,tea cherreadKa mi shi bai .Se c ondel y,Chil drenreadKamis hiba iwi t hc o orerat ivelear ning.Ver ti cal in ter acti ona n dh or izo ntali nte rac ti onwa sobs erve dinz on eo fpr oxi mald e vel opment.TheJapanes ee r uca tion usi ngKa mishi baieduca tedexpr ess ivene ssandsymp a thy .Th i smetho do feducat ionisc o nsider da sact ive l erni ng Keywords:z oneo fpr oxi mald eve lop men t,r ead ingc omp reh ens ion ,ex pre ssi ven ess ,so cia lin ter act ion ,ac ti ve l ern ing  すべての国語学習は, 「生活的な学び」の思想を源流と Ⅰ.問題と目的 しているとされる。学習者の生活と密着させ,生活にあ  国語学習,とりわけ物語の単元における学習指導を進 るように学ぶ場を用意して, 「美しいもの」にかかわるさ めるにあたり,指導者は,児童・生徒に美しいものを見 まざまな認識を広げたり深めたりしていく単元展開の過 せたいという願いをもっている。優れた作家も,このこ 程で,言語能力と国語学習力に培う場を設定することを とを感じている。作家司馬遼太郎は,小学校用教科書の 本研究の理念とする。筆者らは,これまでにも複数の論 ために書き下ろした随筆を次のような文章で結んでいる。 考において,この理念を明らかにしてきた(たとえば, 「私は、君たちの心の中の最も美しいものを見続けなが 皆川・横山,2013)。 ら、以上のことを書いた。書き終わって、君たちの未来  この理念を具現化するにあたり,考慮すべきことの第 が、真夏の太陽のようにかがやいているように感じた。 」 1は, 「学習者の発達」についての認識である。そのため (司馬,1989) には,二つの観点が必要である。一つは,「発達に即す  指導者として,学習者一人一人の「最も美しいもの」 る」という観点である。もう一つは, 「発達を促す」とい を見続けたいと考える。それと同時に,学習者にも,自 う観点である。 「発達に即する」ことに関して,本研究が 他の「最も美しいもの」を見る目を養いたいと考える。 対象とする小学校第5学年は,ヴィゴツキーの言う生活 そのために, 「美しいもの」に触れる機会をできるだけ多 的概念から,科学的概念へと移行する時期であると考え くつくることがたいせつであると考える。 られる。物語を読み味わう際にも,いわゆる目にみえる №32 37 「もの」や「こと」で捉えている学習者と,直接は目に れぞれの発達を導くことが可能になるとも考えられる。 見えないような「もの」や「こと」で捉えている学習者 このことを実現するためには,相互作用の質を考慮しな が混在している。本研究にともなう授業実践においては, ければならない。子どもが対大人,対仲間との間でどの その差異を見極め,両者に対して適切な働きかけをおこ ような相互作用の過程を展開しているのか,またそこか なっていく必要がある。一方, 「発達を促すこと」に関し ら子どもは何を獲得しているのかを明らかにすることが ては,本研究における授業実践では,科学的概念の獲得 大きな課題になっているのである。以下では,このこと が未熟な学習者には,抽象的・概念的なことばを得るよ を議論する。 うに促したいと考える。そのためには,ヴィゴツキーの  「最近接発達領域」の理論は,精神発達における教師の 最近接発達領域の考え方を取り入れ,その領域に支援を 先導的役割の必要性とともに,子ども自身の積極的な内 していく必要がある。認識を育て,身のまわりの「もの」 面的活動,そして子どもたちの集団的・協同的活動の必 や「こと」に目を見開くように言語諸能力の育成を図る 要性を説いている。実際,多くの教師は子どもたちのこ 手立てが必要なのである。 のような活動を促していると考えられるが,それによっ  ヴィゴツキー(Vy got sky ,L.S. )が提唱した「最近接発 て子どもの内面的活動が促進されるメカニズムないしは 達領域論」は,子どもの精神発達と教授-学習との関係 過程については,必ずしも明らかになっていない。本研 をどのようにとらえるかを示す心理学的概念であり,教 究では, 「最近接発達領域」に対する教育的働きかけの観 育的活動と子どもの発達との関係を明示した考え方であ 点から小学校国語科授業を構成し,その成果を分析する る。成熟と学習の相互依存的関係を表すモデルとして考 ことにより,教師や有能な仲間の働きかけ(言葉がけを えられ,問題解決場面において,子どもが独力で解決可 含む)によって,いかにして児童の内面的活動が促進さ 能なレベル(=現時点の発達水準)のほかに,大人や有 れるのかを検討する。上述の水平的相互作用と垂直的相 能な仲間の援助のもとで可能となる,より高度なレベル 互作用は相互作用する相手が自分と比べて発達的に同じ (=潜在的な発達可能水準)を仮定し,この二つのレベ 水準にあるのか,それとも上の水準にある者かどうかと ルに囲まれた範囲を「最近接発達領域(Zo neo fPr oxi mal いうことで分けたものであるが,相手の認知的熟達度が De vel opme nt:ZPD)」とよび,教育が影響を与え得る部 高い場合,それだけこのパートナーから指導的な役割を 分はここにあると主張する。つまり教育の本質は,子ど 受ける可能性が高くなる。このような垂直的な相互作用 もが成熟しつつある領域に働きかけるところにあり,し の中で行われるやり取りと,同じ水準の者同士の間の水 たがって,教育的働きかけにより発達の可能水準が現時 平的な相互作用とでは,相互作用の内容もその機能的意 点の発達水準へと変わると同時に,新たに発達可能水準 味も異なる。佐藤(1999)が引用・翻訳した Gr ano t( t1993) が広がるという意味で,教育は先導的な役割を果たすと の分類によれば,パートナー間の認知的熟達度に差がな 考えたのである。 い場合の相互作用は,協同性が強くなると「対等な協同  このように教育は重要だが,子どもは大人からの教育 作業」 ,それが弱くなると「並行活動」と呼ばれ,その両 的働きかけを受けとめるだけの存在ではなく,積極的に 者の中間に位置するのが「対位法的関わり」であるとさ 相互作用し,相互作用的活動から得られたものを自己の れる。一方,垂直的相互作用にも協同性による変動があ 中に内面化していくという能動的な存在である。大人や り,協同性が弱い順に, 「模倣」, 「指導あるいは徒弟制」, 発達の進んでいる仲間からの一方的な働きかけで子ども 「足場作り」と呼ばれる。また,熟達度の差についても, の発達が実現するとは思えないし,ヴィゴツキーもその 中間が想定されている (有能な仲間との差にあたる) 。本 ようには考えなかった。教師は単なる知識の伝達の役割 研究では,これらの観点から教育的働きかけを分類し, 者として振る舞うだけでなく,子どもの相互作用を調整 それぞれの機能的意味を検討する。 する支援的な役割を果たすと考えていた。大人の教え込  本研究にともなう授業実践では,物語教材を取り扱う。 みの重要性を述べたものではなく,大人—子ども間の相 わが国において,ヴィゴツキーの理論を物語教材に関す 互作用,子ども同士の相互作用がともに重要な役割を果 る 教 育 に 応 用 す る 先 駆 的 な 取 り 組 み と し て,佐 藤 たしていると考えていたのである。 ;1996b (1996a )があげられる。佐藤(1996a )は,新  佐藤(1999)によれば,前者は垂直的相互作用,後者 美南吉著『ごんぎつね』を題材として,子どもたちは文 は水平的相互作用にそれぞれ分類される。先に,研究に 学教材をどのように読み進めているか,その読解モデル ともなう授業実践においては,学習者一人一人の発達の を提案し, この作品における読解の基本的視点として 「つ 差異を見極め,個々の発達状況に応じて適切な働きかけ ぐない」と「友だち」の二つがあると論じた。複数の小 をおこなっていく必要があるといった趣旨のことを述べ 学校の4年生での授業における話し合いのデータにもと たが,これらの考え方からすると,それだけではなく, づく論考である。この読解モデルにもとづき,子どもた 発達の差異のあるなかで相互作用を促すことにより,そ ちの読解過程が論証された。これを受けて, 佐藤(1996b ) 38 鳴門教育大学学校教育研究紀要 は,協同的学習の視点から,子どもたちが他者との対話 原作に忠実であることを心がけつつ,登場人物の気持ち を通してどのように自己の「読み」を深めていっている を直接表現することを避けるなどの工夫をした。絵につ のか,その読解変容の過程を探った。小学4年生におけ いても,時代背景など原作のニュアンスを損なわないよ る六つの授業でのモノローグ的発話とダイアローグ的発 うに気を付けながら,児童の興味・関心に配慮し,現代 話を指標として,「教師-子ども」間と「子ども-子ど 的な要素も取り入れた。 も」間の発話連鎖を解析し,「つぐない」から「友だち」  T県 A市立 N小学校(第2著者の前任校)をフィール へ視点への変容が読みを深める要因であると考察した。 ド校とし,第5学年1学級において,授業を実施した。  また,麻実(2010)はヴィゴツキー理論にもとづき, 実施にあたり,同校の教頭先生(第2著者)と,担任の 『たぬきの糸車』,『スーホの白い馬』 ,『ごんぎつね』と 先生のご理解とご協力を得た。授業実施の2か月ほど前 いった物語教材を用いて,ことばや文章への子ども自身 に,児童理解を目的として2日間にわたって,当該学級 の受けとめを明らかにし,話し合いを通して読み深める の授業を参観し,休み時間には児童と交流した。授業参 ことを目ざす授業を行っている。発話分析や子どもの学 観の前後に,第2著者に,児童理解ならびに授業実践に 習ノートの分析により,教授=学習過程や概念,発話と ついての講義を依頼した。本研究で行われた,小学校で 内言の発達について考察している。 の授業の概要を以下に示す。単元名は「手ぶくろを買い  さらに,筆者らの下記の教育研究も,ヴィゴツキーに に」とした。小学5年生という発達段階を考慮し,作者 よる ZPD理論の実践版として位置づけることができる の思いを知ることに重点をおくことにした。また,同学 と考えられる。皆川・横山(2013)において,第1著者 年の発達差にも配慮することにした。 は大学院生とともに,第2著者による当時の勤務校での 小学校5年生国語科授業への参与観察を行い,児童一人 1.単元設定の理由 ひとりがまず俳句の中心的構成要素である季語やその季  児童の実態,教材の価値,指導方法および学習方法と 節の事象に関わる言語表現を考えて発表し合い,仲間の いう3つの観点から,単元設定の理由を考察する。 思い浮かべた言葉や表現を互いに取り入れながら俳句を 1)児童の実態 創作し,他者のよさを相互に認め合いながら鑑賞する姿  本学級の児童は,日頃から活発にコミュニケーション を観察した。ここでは明らかに,垂直的相互作用と水平 がとれており,学級会等の話合い活動の場面において, 的相互作用の両方が営まれていた。 積極的に発表したり意見を交わしたりすることができて  これらの論考を踏まえ,小学校第5学年国語科におい いる。しかし,中には,自分の考えをはっきりと伝える て,子どもの「最近接発達領域」を考慮した授業を構成・ ことを得意としない児童もいる。授業場面においても同 実践し,教育効果を検証するとともに,問題点を見いだ じような状況ではあるが,班に分かれての活動では,児 し,教育心理学ならびに教育実践学の立場から,子ども 童同士で意見を交わし合い,班として一つの課題に取り の「最近接発達領域」を考慮した教育に寄与することを 組むことができている。 本研究の目的とする。  児童は, 「きいて,きいて,きいてみよう」において話 し手の意図をとらえながら聞き,自分の意見と比べるな どして考えをまとめること, 「明日をつくるわたしたち」 Ⅱ.授業の構成 において互いの立場や意図をはっきりさせながら,計画  本授業実践は,N大学大学院修士課程における教職教 的に話し合うことを学習してきている。 育科目「教育実践フィールド研究」の一環として行われ  本単元では,文章を読み取る活動から作者の気もちを た。第1著者が担当する「教育実践フィールド研究」で くみ取り,作者が表したかった心情について考え,班に は,教員に求められる5つの資質・能力(教育者として 分かれての紙芝居の実演を通して,考えたことを表現し, の人間性,協働力,生徒指導力,授業実践力,省察力) 積極的な意見の交流を通じて,人の気もちに共感し優し の育成と向上を目指した。本授業実践の研究主題は「作 い心が育つことを期待する。 者と対話しながら読む国語科授業-児童の発達の最近接 2)教材の価値 領域を考慮して-」とした。教職志望の大学院生6名  本教材では,登場人物の相互関係や心情,場面につい (うち1名は,留学生)が協力し合い,紙芝居を用いた読 ての描写をとらえ,優れた叙述について自分の考えをま み聞かせ活動ならびに児童の朗読活動によって構成され とめ,さらに班でひとつの発表へとつなげる学習をおこ る小学校国語科授業を考案・実施した。教材としては, なう。登場人物であるきつねの母子を通して,人間観の 新美南吉著『手ぶくろを買いに』を選定した。教具であ 違いが描かれており,人間について深く考えさせる教材 る紙芝居については,分担と協同により,絵や脚本づく となっている。 りをおこなって自作したものを用いた。脚本については,  また,秋田(2015)によれば, 『手ぶくろを買いに』 №32 39 は「感動する,切ない」を話のテーマとし, 「人の気持ち Ⅲ.授業の実施と分析の方法 に共感するやさしさ」を育てる物語のひとつとして位置 づけられ, 「登場人物の気持ちになる」という楽しみ方が 1.教育対象と実施期間 できるとされている。小学3年生の教材とされることが  N小学校の5年1組の児童28名を教育対象とした。実 多いが,後記「2.研究の視点」に示すように,本授業の 施期間は,2016年1月27日・28日・29日であった。 教育対象である5年生で扱う場合には,一歩進め, 「登場 人物の気持ちになることをとおして作者と対話し,作者 2.授業の実施方法 の思いを知ること」を目ざす教材とすることができると  3時間計画とし,1時間目と3時間目を大学院生2名 考えられる。 が TTで実施した。 2時間目はフィールド校の教頭先生に 3)指導方法および学習方法 実施を依頼した。各時間の学習活動は, 下記の通りであっ  本単元では,俳句や短歌などとともに,日本発信の文 た。各時間の学習指導案を巻末に掲載する。 化であるといわれる「紙芝居」を用いて学習をおこなう。 1時間目 3時間の授業の流れを確認し,授業者による 紙芝居は教科書や絵本とは異なり,絵と文字が分離され 読み聞かせ(紙芝居による実演)を聞く。紙芝居は,13 ている(文章が音声で提示される)ため,視覚と聴覚と 場面から成る。作者の気持ちが強く表れている場面,そ いう複数の感覚を活性化し,豊かな想像力をもつことが の気持ちや伝えたかった内容を考え,ワークシートに記 できると考えられる。また, 「紙芝居」を通じたコミュニ 述する。ワークシートは,下記の3問で構成された。① ケーションによって演じ手と観客相互の作品世界への 作者の気持ちが強く表れているように思う場面の番号を 「共感」が生まれることが予想される。 書きましょう。②選んだ場面で作者が表そうとしていた  児童一人ひとりが紙芝居の読み聞かせや文章から,作 気もちを考えましょう。③その場面を、はんでどのよう 者の気もちや考えを読み取り,班活動の中で児童一人ひ に読みたいか考えましょう。 とりが考えたことや感じたことを表現できるようにする。 作者の気もちや考えを読み取る活動から,作者が表した かった心情を深く考える機会をもち,共感しながら話合 いを進められるようにしたい。また,児童自身が共感し たことを紙芝居の実演を通して表現することで,表現す ることのよさに気づき,全体の場においても自信をもっ て発言できるようにしていきたい。 2.研究の視点 図1 導入部分の板書  第2著者によれば,読みの発達に関して,小学校第5 学年は,本の内容を自分のことに置き換えて考えること  なお,紙芝居による実演を行う際,授業者は,感情を ができ,作者と対話しながら読むことができるようにな あまり強く表さずに読むことにする。授業者の感情を強 る段階である。この観点を踏まえて紙芝居を用いて朗読 く入れすぎると,子どもの感情を先取りして表現の方向 をおこなう。朗読には相手に対して,表現するという特 性を規定してしまう可能性がある。このため,授業者は, 性がある。文章を読み取る活動から作者の気もちをくみ 児童の想像性や表現を広げ,児童たち自身が工夫する余 取り,作者が表したかった心情について考え,紙芝居の 地を残すことを意図して,演じることにした。 実演を通して表現し,積極的な意見の交流をおこなうこ とで人の気もちに共感する優しさを育てることを目指す。 3.単元の目標  気もちを伝え合う力を進んで高めるとともに,国語に 対する関心を深めようとする態度を育てる。 4.評価規準 国語への関心・意欲・態度 話す・聞く能力 読む能力  気持ちを伝え合う力  相手や目的・意図に  目的に応じ,内容を を進んで高めるととも 応じて,話し,聞き, 捉えながら本や文章を に,国語に対する関心 話し合い,自分の考え 読み,自分の考えを明 図2 紙芝居の各場面(全13) を深めようとする。 を明確にしている。 確にしている。 児童による場面選択の表示後 40 鳴門教育大学学校教育研究紀要 2時間目 似通った気持ちや考えをワークシートに記述  このような手順を踏んで T1紙芝居を実演し,作者の していることを基準に,班構成を行う。班に分かれて紙 気もちが強く表れていると思う場面,その気もちや伝え 芝居朗読の練習を行う。 たかったことを考えて個人でワークシートに書くという 3時間目 それぞれの場面ごとに紙芝居朗読の発表を行 学習活動に入ったが,その記述に困難を示す児童がいた。 う。他班の紙芝居朗読の発表を聞いて思ったことや感じ ここで,T2を中心に記録者も聞き取りと助言を行い, たことなどを発表する。 活動を促した。それでも後述するように記述が進まない 児童がいたが,選んだ場面をネームプレートで示すこと 3.授業分析の方法 は,全員ができた。ここでは,熟達度の差と協同性がと  1時間目と3時間目の授業は,第1著者の教育実践 もに大きい「足場作り」 (佐藤,1999:Gr ano tt,1993) フィールド研究を受講する2名の大学院生が TTで実施 が行われていたと考えられる。 した。同授業を受講する残り4名の大学院生は,第1著 者とともに,記録者となった。大学院生は,教室の後方 2.作者の気持ちについての話し合いと班活動 から授業者を中心にビデオカメラで録画し,板書を中心  2時間目の授業は,フィールド校の教頭先生が実施し に写真を撮影した。第1著者は,主として筆記による記 た。1時間目のワークシートの記述をもとに発表会が行 録を担当した。1時間目と3時間目については,これら われ,その発表内容に,本学級のことをよく教頭先生が の方法により,児童の一斉授業における発言や,班活動 日常の人間関係などを考慮し,表現や読み方についての における発話,授業者からの働きかけや児童の応答,そ 話し合いが円滑に進むように配慮しながら,班を構成し れに対する授業者の応答などが詳細に記録され,1時間 た。ここでは, 熟達度の差が大きく, 協同性は中程度の 「指 目におけるワークシートの記述とともに,教育効果の分 導」(佐藤,1999:Gr ano tt,1993)が行われていたと考 析に用いられた。なお,学級内の発達者を考慮し,記録 えられる。班の構成過程は,以下の通りである。 者も適宜,机間巡視し,個々の児童に対する学習支援を  シーン2は,遠くにいるお母さんに声をかけながら雪 おこなった。 と触れ合う場面である。この場面を選んだ児童は2名で あり,ともに女子であった。彼女らがこの場面から感じ 取ったことばは, 「やさしさ」と「たのしい」であった。 Ⅳ.結果と考察 この2名を1班とし,母と子の台詞を読むこととした。 1.場面の選定と作者の気持ちの読み取り  シーン6は,母狐が人間を怖がって立ち止まる場面で  1時間目には,作者の気持ちが強く表れている場面, ある。この場面を選んだ児童は2名であり,男女各1名 その気持ちや伝えたかった内容をワークシートに記述す であった。児童がこの場面から感じ取ったことばは, 「こ るという学習指導が行われた。全13シーンのうち,児 わそうな」であった。この2名を2班とし,母狐と子狐 童が演じたいとして選んだのは,2,6,7,10,13の各 の台詞とナレーションを分担して読むこととした。 場面であった。1時間目には,場面を選び,ワークシー  シーン7は,母狐が子狐の片手を包み込んで人間の子 トに記入するところまでを実施した。 どもの手にし,手袋代を与え,店では人間の手のほうを  授業者(T1)が「いつもの授業とは違い,紙芝居を 出すように言う場面である。この場面を選んだ児童は2 使って授業をします」と告げ, 「今日は先生が授業をして 名であり,男女各1名であった。児童がこの場面から感 紙芝居を読みます。そして, 3回目にはこの紙芝居を使っ じ取ったことばは, 「人間を経験」と「本当」であった。 てみんなに好きな場面を読んでもらいます」と呼びかけ この2名を3班とし,母狐と子狐の台詞とナレーション ると,児童からは「やってみたい」という声が多く聞か を分担して読むこととした。 れた。しかし,5年生までの勉強をふまえ, 「登場人物の  シーン10は,子狐が店に就き,最初は葉っぱのお金 気もちを考えることを通して作者が表したかった気もち だと疑っていた店主が手袋を売ってくれる場面である。 や伝えたかったことを考えながら読んで,発表できるよ この場面を選んだ児童は8名であり,男女各4名であっ うにしようと働きかけると, 「できるかなぁ」という児童 た。児童がこの場面から感じ取ったことばは,3名(男 と, 「やってみよう」という児童に分かれた。次に作者を 子2名,女子1名)が「やさしい」 ,「やさしさ(優しさ)」 問い,新美南吉の写真を見せながら作者の人物像を紹介 とシンプルで,1名(男子)は書いていなかった。この し,『ごんぎつね』と同じ作者であることを知らせると, 4名を5班とした。残りの4名(男子1名,女子3名) 「そうなんだ」とうなづく児童がみられた。上記の一連の は, 「正直もの ちゃんと手袋をわたした」 ,「きつねの手 働きかけは,熟達度の差が大きく,協同性は中程度の だったとしても売ってあげていた」 ,「心を広くもちなさ 「指導」(佐藤,1999:Gr ano tt,1993)にあたると考え い」「けっして,人はどうぶつだからつかまえはしない られる。 (どうぶつはわる者じゃない) 」であった。この4名を6 №32 41 班とし,子狐と店主の台詞とナレーションを分担して読 達度の差が中程度もしくは小さい「協同活動」と「対位 むこととした。 法的関わり」(佐藤,1999:Gr ano tt,1993)が営まれて  もっとも多くの児童が選んだのは物語の最後のシーン いたと考えられる。授業者からは, 「そういう風に読むと 13であり,14名(男子6名,女子8名)であった。こ 作者の気持ちが伝わるよね」というフィードバックが行 のシーンでは,子狐が「人間ってちっともこわくないん われた。このフィードバックは,熟達度の差と協同性が だよ」と話し,母狐がなぜかと問うと,子狐がまちがえ ともに大きい「足場作り」 (佐藤,1999 :Gr ano tt,1993) て本当の手を出したのに,ぼうし屋さんは温かい手袋を にあたると考えられる。 くれたためだと答える場面である。母狐は驚き, 「本当に  次に,紙芝居を演じてみて,どのようなことを思った 人間はいいものかしら」と繰り返し言う。児童がこの場 かを全員に尋ねた。 「子狐が手ぶくろを売ってもらえて, 面から感じ取ったことばにより,児童同士の人間関係な よかった」 ,「子狐に人間はこわくないと思ってもらえて ども考慮し,以下のような班分けが行われた。はじめは, よかった」 ,「お母さんにも,人間はいいものだと思って 「こわくなく,やさしい人 やさしいこと」 ,「人間はい 欲しい」, 「みんなと仲良くしたいと思った」といった意 いものなのかは分からない」,「やさしくしていくこと」 見がでた。他の子の意見に「同じです」 「賛成です」とい と,比較的複合的なことばで記述した3名のグループで う形で,意志表示をする児童もいた。ここでも,熟達度 ある。この3名(男子2名,女子1名)を7班とした。 の差が中程度もしくは小さい「協同活動」と「対位法的 次は,「やさしいところ」, 「やさしい」 ,「やさしかった」, 関わり」(佐藤,1999:Gr ano tt,1993)が観察された。 「人間はこわいものではない」と,比較的シンプルなこ とばで記述した4名のグループである。この4名(男子 2名,女子2名)を8班とした。第3に,「やさしくす る」という動詞を用いて作者の主張を表現したと考えら れる2名に,記述のなかった2名を加えて,この3名 (男子2名,女子1名)を9班とした。最後に, 「人間は こわくない」と一様に記述した女子4名を10班とした。  その後,班に分かれて読み方について話し合いが行わ れ,紙芝居朗読の練習が行われた。朗読の練習は,休み 時間も利用して行われた。ここでは,熟達度の差が中程 図3 児童が感じたこと 度もしくは小さい「協同活動」(佐藤,1999:Gr ano tt, 1993)が営まれていたと考えられる。  最後に,児童の意見を集約する形で,この物語の温か さに触れ, 「この物語で出てきたのはキツネだけですが, 3.紙芝居の朗読と作者の気持ちの共有 作者は,人間と人間とが触れ合う温かさと同じことを描  3時間目の授業では,班ごとに選んだ場面を紙芝居で いていたのだなと思います。 」という訓話が行われた。こ 実演し,発表する。1班から順番に発表していくように の訓話は,熟達度の差と協同性がともに大きい「足場作 促すと, 児童の間から, 「緊張するなぁ」 という声があがっ り」 (佐藤, 1999:Gr ano tt, 1993)にあたると考えられる。 た。一つの班に与えられた時間は2分ほどであったが, ほぼ時間どおり進行した。やや声の小さい班もあったが, それぞれに気持ちを込めて読むことができたと考えられ る。他班の発表も,静かに聴くことができていた。各班 の発表が終わると,誰からともなく,拍手が起こった。  紙芝居での実演を聞いて思ったことや感じたことなど を発表する。まず,あの人みたいに読んでみたいと思っ た人がいるかと尋ねると,5名の児童の名前があがった。 ここでまた拍手が起こった。選ばれた人に試演してもら うことも考えていたが,時間の関係から割愛された。な 図4 まとめ ぜそう思ったのかを尋ねると, 「読み方が上手」とか, 「声がよく聞こえる」といった理由があげられる一方,  登場人物の描かれ方を読み取り,他者と話し合うこと 「ほんとうのおかあさんみたいだった」とか, 「優しい声 で作者の気持ちになり,自ら選んだ場面をいきいきと表 だった。自分もやさしい気持ちになれた」 ,「子狐の声が 現し,他者の発表にも聴き入る子どもたちの姿から,紙 かわいらしいかった」といった理由も,あげられた。熟 芝居を用いた教育が表現力とともに共感力も育てる可能 42 鳴門教育大学学校教育研究紀要 性を見いだすことができた。 De vel opme nti ncone xt. :Hi ll sda le,NJ :LEA. 皆川直凡(2015).21世紀の新しい学びに関わる理論と 実践を結ぶ研究 教育心理学年報,54,57-70. Ⅴ.まとめと展望 皆川直凡・横山 武文(2013).子どもの発達の最近接  本論文では,子どもの「最近接発達領域」を考慮した 領域を考慮した学習指導の在り方の検討—俳句をとお 授業を試み,先行の理論的研究や実証的研究の成果と合 した感動・共感体験による季語への関心・知識の深ま わせて考察することで,ヴィゴツキーによる「最近接発 り—.鳴門教育大学授業実践研究,12,19-27. 達領域」の理論の教育への応用可能性を明らかにした。 ヴィゴツキー ,L.S. (1926) .柴田義松・宮坂琇子 (訳)  皆川(2015)が検討したように,小学校から大学まで (2005) .教育心理学講義 新読書社 の教育において,主体的で対話的な学びが求められ,そ ヴィゴツキー ,L.S. (1935) .土井捷三・神谷栄司 (訳) れを導く教育方法として,アクティブ・ラーニングが重 (2005). 「発達の最近接領域」の理論—教授・学習過 視される傾向にある。物語を紙芝居とし,まず教師が実 程における子どもの発達— 三学出版. 演し,つぎに学習者が実演を試みることで文章を読み深 佐藤公治(1996a ).子どもたちは文学教材をどのように める。文章表現の背景にある作者の気持ちを仲間と対話 読み進めているか 認知心理学からみた読みの世界  しながら主体的に読み取っていく。そして,自ら表現す 北大路書房,p p1 .15-160. る。紙芝居の聞き手と演じ手をともに経験する教育方法 佐藤公治(1996b ).教室における子どもたちの対話と協 は,まさにアクティブ・ラーニングの一形態であると考 同的学習 認知心理学からみた読みの世界 北大路書 えられる。その点でも示唆に富む実践となった。 房,p p1 .61-198.  新たな視点から ZPD理論の有用性と問題点を見いだ 佐藤公治(1999).教えること・学ぶことの相互的関わ し,子どもの最近接領域を活かした教育方法の開発に取 り 対話の中の学びと成長 金子書房,p p1 .9-53. り組みたい。本研究における授業実践は,その推進のた 司馬遼太郎(1989) .二一世紀に生きる君たちへ 大阪 めのひとつの方向性を示したといえる。研究協力者とと 書籍「小学国語」 もにその道を歩みたいと考える。 謝辞 Ref erenc es  本研究をまとめるにあたり,本学附属小学校の「ヴィ 秋田喜代美(監修) (2015).こころを育てるおはなし ゴツキーを読む会」の先生方のご協力を得ました。記し 101 高橋書店. て感謝の意を表します。第1著者担当の2015年度大学 麻実ゆう子(2010).授業を分析する 教育実践とヴィ 院授業「教育実践フィールド研究」の受講生(高橋功, ゴツキー理論 一光社,p p1 .0-135. 本山智大,安井知樹,山田高之,吉田麻里菜,穆鴿の各 Gr anot t,N.( 1993) .Pa tt ernsofi nte rac ti oni nthec o-c ons tr uct ion 氏)にも感謝します。さらには,フィールド校の児童の ofknowl edge .InR.H.Woz nni a W.Fi k& K. sche r(Eds .) , 皆さんや先生方にも深く感謝いたします。 1時間目の学習指導案 ⑴ 目 標  作者の気もちをくみ取り,自分の言葉で表現する。 ⑵ 展 開 時間 学  習  活  動 指導上の留意点 評   価 5分 1 三時間の授業の流れを確認し,作者についての説 ○ 本授業のゴールと本時の流れを確認することで, 明を聴く。 本授業への意欲をもてるようにする。 10分 2 紙芝居の読み聞かせを聴く。 ○ 紙芝居を聴く際に,作者の気もちについて考え られるようにする。 20分 3 作者の気もちが強く表れていると思う場面,その ○ 作者の気もちが表れている場面を考え,その場 ○ 作者の気もちを読み取り,自 気もちや伝えたかったことを考えて個人でワーク 面で作者がどのような気もちを表現したいかを考 分なりの考えで書いている。 シートに書く。 えられるようにする。 (ワークシート) 5分 4 選んだ場面をネームプレートで示す。 5分 5 次回は班に分かれ,作者が表そうとしていた気も ちをどう考えたかを話し合い,紙芝居を読む練習を することを伝える。 №32 43 2時間目の学習指導案 ⑴ 目 標  作者の気もちをくみ取り,紙芝居で表現する準備をする。 ⑵ 展 開 時間 学  習  活  動 指導上の留意点 評   価 7分 1 選んだ場面をネームプレートで示し,班に分かれ ○ワークシートの記述内容を考慮して,班分けをす る。 る。 10分 2 班活動の形で,作者が表そうとしていた気もちを ○ 話す側は感じたこと,思ったことを表現し,聴 ○ 作者の気もちを読み取り,自 どう考えたかを話し合い,共有する。 く側はそれを受け止められるようにし,尊重でき 分なりの考えで発表している。 るようにする。 10分 3 考えた作者の気もちを伝えるために紙しばいをど ○ どのようにして紙しばいを読めば考えた作者の ○ 人の意見にも耳を傾け,班活 のように読みたいかを班で話し合う。 気もちが伝わるかを考えられるようにする。 動に協力している。 15分 4 次回は全体で発表することを確認し,班ごとに紙 芝居を読む練習をする。 3分 5 休み時間などに練習しておくよう伝える。 3時間目の学習指導案 ⑴ 目 標  人の気もちに共感する優しさをもつことができる。 ⑵ 展 開 時間 学  習  活  動 指導上の留意点 評   価 5分 1 発表の準備をする。 ○ 時間を意識させてしまうと,読み方が変わって しまうことが考えられるため,余裕をもたせて準 備できるようにする。 28分 2 班ごとに選んだ場面を紙芝居で実演し,発表する。○ 班で考えた読み方の工夫を活かしながら発表で ○ 班で考えた工夫を活かしなが きるようにする。 ら発表ができている。 (発表, ワークシート) 7分 3 紙芝居での実演を聞いて思ったことや感じたこと ○ 「読み方を真似してみたい人は誰?」「がんばっ などを発表する。 て読んでいた人は誰?」という発問をおこない, 児童同士で評価できるようにする。 5分 4 指導者全員と握手をし,話を聞く。 ○ 教材として使用した物語が実生活とつながりが あることを感じられるようにする。 44 鳴門教育大学学校教育研究紀要