特集:電子書籍のいま UDC 02:000.000:000.000 米国大学図書館における電子書籍サービス グッド長橋広行,グッド和代* 米国では電子資料の増加にともない大学図書館の役割が,蔵書構築から学習スペースの提供や更なる学習支援に転換してきている。私た ちは電子書籍の増加が図書館サービスの転換を促し,利用者支援を向上させると期待してきた。しかしここ数年の電子書籍を取巻く環境は, 私たちが予想していたものとは違うようだ。学生はいまだ紙書籍を好み,電子書籍の読み辛さは改善されず,大学図書館の電子書籍購入予 算は減少している。本稿ではその問題と原因を 2 つの最新の全米調査報告書から探り,大学図書館で電子書籍サービスを支える職員たちの 取り組みを報告する。最後に日本語電子書籍への要望を添える。 キーワード:電子書籍サービス,電子書籍の利用,電子書籍,電子資料,米国,大学図書館,図書館利用調査,学生利用調査,教員利用調 査 利用 2016」1)と「Ithaka S+R 米国大学教員調査 2015」2)で 1.はじめに ある。 米国では電子資料の増加にともない大学図書館の役割 が,ここ数年著しく変わってきている。学生たちへの学習 2.1 大学図書館の現場から見た学生の電子書籍利用傾向 スペース提供と学部生への学習支援が図書館の大きな役割 LJ の調査は,2016 年 4 月 1 日から 5 月 3 日までの約 1 となり,ピッツバーグ大学図書館でも書架を大幅に減らし カ月間,LJ のニュースレター購読者あてに電子メールで呼 本と雑誌をどんどん倉庫へ送っている。 びかけて実施された。346 館の大学図書館から回答があり, 場所を取らない電子書籍は図書館にとってありがたい存 その内訳は,大学院のある大学やプロフェッショナル・ス 在であり,DDA(Demand Driven Acquisition,または PDA クールの図書館(法学図書館や医学図書館など)が 29%, =Patron Driven Acquisition,アクセス後に購読料を支払 学部生向けまたは 4 年制大学の図書館が 45%,コミュニ う方法)の導入により選書にかける時間が減らせて,リエ ティ・カレッジまたは 2 年制大学の図書館が 26%であっ ゾン・ライブラリンたちは学習支援に力を注ぐことが出来 た。回答者の内訳は,館長/副館長 24%,リファレンス/ る。本を借りに図書館まで行く必要もなく,たくさんの重 情報サービス担当 24%,電子資料担当 12%が全体の 6 たい本をナップザックに入れて持ち歩く必要もなくなり, 割。そして残りの回答者は様々な職場の図書館員たちであ 全文検索で必要な個所をすぐに見つけることが出来るか る。所属を並べてみると,総務部長,総務課長,蔵書構築 ら,学生たちが課題論文を書く効率も向上する。良い事づ /選書担当,テクニカルサービス/IT 担当,アクイジショ くめの電子書籍のようだが,最近の利用者調査を見てみる ン担当,カタロガー,貸出し担当,システム担当,インス と,ここ 2,3 年,電子書籍の利用者満足度も,図書館の トラクション担当と幅広く,日常業務で電子書籍コレク 電子書籍購入量も横這いまたは低下傾向が報告されてい ションにたずさわる図書館員の職域が広がっている実態が る。そこで本稿では 2015 年と 2016 年に行われた 2 つの 見える 3)。LJ 調査は,図書館の現場から見た電子書籍の動 利用調査から,学生と教員の電子書籍の利用傾向を見てみ 向が中心であるが,利用者から受けた質問,館内での学生 る。その上で,電子書籍の購入によって図書館員たちの仕 行動から得た電子書籍の利用傾向や不満の声も併せて報告 事がどう変わったか,そして日本の電子書籍への要望を付 しているので参考にしたい。 け加えておきたい。 2.2 参考図書は圧倒的に電子書籍,その他は使い分け 2.利用調査から見た最近の電子書籍の利用傾向 LJ 報告の冒頭には,大学図書館での電子書籍の利用傾向 本稿で参考とする利用調査は,Library Journal(LJ) がつぎのように報告されている。 「今回の調査での大きな発 が 2016 年に行った「米国大学図書館における電子書籍の 見は,紙書籍がいまでも学生や教員に好まれているという ことであろう。図書館としては大量の電子書籍を提供して いるのだが,電子書籍が紙書籍より多く利用されているの *ぐっど ながはし ひろゆき,ぐっど かずよ ピッツバー は参考図書だけで,司書たちが期待するほど利用者たちは グ大学図書館 University of Pittsburgh, 207H Hillman Library 電子書籍を使っていないのが現実だ」と述べている 4)。 3960 Forbes Ave., Pittsburgh, PA 15260 さらに LJ は利用者に好まれている電子書籍と紙書籍の E-mail:
[email protected](原稿受領 2016.10.24) ジャンルについて報告している。参考図書は,電子書籍 ― 19 ― 情報の科学と技術 67 巻 1 号,19~24(2017) 56%に対し紙書籍 16%なのだが,教科書になると電子書籍 31%に対し紙書籍 42%と逆転。学術資料では紙書籍が根強 く 47%も支持されている。 分からない 特になし 紙書籍 電子書籍 56 参考書 16 14 13 31 教科書 42 10 18 21 ノン フィクショ ン 39 17 24 19 研究書 47 17 17 7 フィクショ ン 50 17 27 3 古典 57 19 21 図 1 学生が好むジャンルの電子書籍と紙書籍の比較 5) 図 2 学生と教員の電子書籍を嫌う理由 6) 図書館員たちのコメントによると「学生たちは章や一部 だけを読む場合は電子書籍を好むので,このレベルのアク 籍を好まない」という回答が,2012 年の 1%から 2016 年 セスを提供している販売会社を好む。一方全部を読むには は 40%に飛躍的に増加したことは,その表れだろう。2016 紙書籍の方がいいようだ」 「研究テーマの書誌情報を集める 年の回答には使いにくさについての指摘が目立つ。 「プラッ 際には電子書籍を好むようだ」と観察している。 トフォームが使いづらい」 「オフラインで読めない/ダウン ロードできない」「モバイル機器が使いづらい」 「情報の共 2.3 電子書籍利用を妨げる要因は? 有がむずかしい」の回答数も多い。 「スクリーンやオンライ 右の図 2 は,何が電子書籍コレクションの利用の妨げに ンで読みずらい 41%」というのも,2012 年の 45%からわ なっていると思うか,という質問への回答で,2016 年と ずかに減っただけでまだ大きな問題だ。 2012 年の LJ 調査を比較している。15 の選択肢を示し, 試しに iPhone 6 Plus で NetLibrary にアクセスしてみ 該当する内容はいくつでも選んでもらった結果,2016 年の たら,日本語も英語の電子書籍も,書誌情報は見られたが, トップ回答は「紙書籍のほうを好むから 60%」になった。 本文は読めず,コンピュータで読むために検索結果をメー 2012 年の調査では 50%だ。さかのぼって 2010 年に行っ ルする機能がついていた。届いたメールをコンピュータで た同様の調査では 40%が「紙書籍のほうを好むから」と答 開き,メールに含まれたリンクをクリックしたが,残念な えている。 がら EBSCOHost のログイン・ページに繋がってしまい, さて LJ 調査では「 (学生たちは)電子書籍の存在を知ら 本文は読めなかった。ここまで面倒だと,学生たちは電子 ない」という回答が 56%とかなり多い。この回答は 2012 書籍を使うのをいやになってしまうことだろう。 年の 52%よりわずかに上昇しているが,2010 年には 62% 図書館ウェブサイトから検索した電子ジャーナルの論文 だったそうだ。この回答には,コミュニティ・カレッジの や電子書籍は,学内学外に関わらず,スムースに本文にア 利用者傾向が影響していると LJ は指摘している。コミュ クセスできるようになっているが,モバイル機器での検索 ニティ・カレッジの図書館員が「(学生たちは)電子書籍の 結果からメールで送ったリンクは,自動的にリモートアク 存在を知らない 70%」 「紙書籍のほうを好むから 68%」と セスを経由するように設定されていないのだ。 回答しているのだ。 LJ 調査で,2012 年より減ったネガティブ要素に「タイ トルの少なさ」がある。2012 年の 49%から 2016 年は 25% 2.4 なぜ紙書籍は依然として人気があるのか? とほぼ半減している。しかし同じ質問で大学別の回答を見 LJ 調査による紙書籍への志向をどう見るか難しいとこ ると,大学院のある大学やプロフェッショナル・スクール ろだが,電子書籍が大量にオンライン・カタログで提供さ での電子書籍タイトル数への不満は 2012 年も 2016 年も れるようになり試してみたが,いろいろ面倒で使いずらい 33%で横ばいである。これは高度な専門書になるほど電子 という反動ではないだろうか。 「印刷制限があるから電子書 書籍化されていない状況を物語っている。その一方で,大 ― 20 ― 情報の科学と技術 67 巻 1 号(2017) 学院生たちがたくさんの本をスキャナーの横に積み上げ, 名から,354,560 名の医学部以外の教員,68,958 名の医学 必要な個所を選んでスキャンしている姿を図書館でよく見 部教員を抽出。利用調査への回答は,医学部以外の 8,815 かける。かれらは自分で集めた資料の PDF をノートパソ 名の教員,医学部の 388 名の教員から得た。Ithaka S+R コンやタブレットで読んでいるのだ。電子書籍の印刷制限 調査の医学部以外の教員の内訳は,自然科学 2,296 名,社 やダウンロード制限に加えて,会社によって違うプラット 会科学 3,764 名,人文学 2,617 名,日本学も含まれる地域 フォームの煩雑さへの不満も,紙書籍の支持に関係してい 研究が 138 名である 7)。 ると思う。これは,電子書籍の全文検索能力の利用価値を 知り,ほしいところだけをスキャンして読みたい学生の要 2.6 教員の図書館サービス利用から見る電子書籍 望に答えられない電子書籍提供会社の問題である。 特筆すべきは,電子書籍に限らず大学教員に対する「学 回答者のコメントに「電子で提供している同じ本の紙書 術資料を探す場合,どこから始めるか」という質問に,図 籍を ILL でリクエストする学生がたくさんいる」という報 書館ウェブサイトとオンライン・カタログという回答が, 告もある。電子書籍を購入した場合,紙書籍は基本的に購 2012 年頃から増加していることである。これはディカバ 入しない方針の図書館が多いからである。 「学生たちはディ リーの導入や図書館ウェブサイトの使いやすさの向上など スカバリーで資料を探し,コンピュータで論文を書き,オ に,図書館が投資をしてきた結果であると Ithaka S+R で ンランで課題を提出している。一日中コンピュータの画面 も分析している。長い間,グーグルなどのサーチ・エンジ を見て目を酷使しているのだから,その上教科書までスク ンに水をあけられてきたが,私たち図書館員の利用者研究 リーンで読みたいと思わない」という意見もあった。また と投資がやっと成果につながってきたことは,とても喜ば 「どの機器を使って電子書籍を読んでいるか」という質問に しいことである。 は,ノートパソコン 59%が圧倒的に多く,iPad などのタ Ithaka S+R のエグゼクティブ・サマリーでは, 「(教員 ブレットを使っているという答えはわずか 4%だった。タ の利用傾向は)研究書の出版形態に関しての大きな変化は ブレットの方が電子書籍が読みやすいとは思っていないよ 見られない。あえて言うならば,教員たちの電子媒体への うだ。 優先傾向は 2012 年の調査時より上昇している」と述べて 電子書籍の利用者指向を今後も継続して調査することは いる。しかし人文学,社会科学,自然科学,医学の研究分 重要だが,プラットホームの多様化が広がっている現状で 野別の教員たちへの「電子書籍と紙書籍のどちらが自分の は実態を把握するのは困難だと LJ は指摘している。そし 研究と授業に役に立つか」という質問の回答を見ると,電 て 2016 年に紙書籍を指向しているジャンルでも,電子書 子書籍の優先傾向は着実に上昇している。まず医学部の教 籍の形態が今後も変わっていく可能性を視野にいれると, 員は 62%対 25%で最も差をつけて電子媒体に軍配を挙げ まだ電子書籍の成長の余地があることも示唆している。 ている。次は自然科学で 58%対 30%,社会科学の教員た ちも予想以上に電子書籍が役に立つと 57%が答えており, 2.5 教員対象の利用調査に見る電子資料への関心度 紙媒体を重視するのは 42%に留まっている。唯一紙媒体を 「Ithaka S+R 米国大学教員調査 2015」(以下 Ithaka より重要だと答えているのは人文学部の教員たちで 65%。 S+R)は,2015 年 10 月 18 日から 12 月 18 日の 2 カ月間 しかし電子媒体の方が役に立つと答えた教員も 41%とか に集めた大学教員たちの意見である。LJ ほど電子書籍の利 なり多い 8)。 用傾向を重点的に調査してはいないが,教員たちのデジタ 上記の通り,電子書籍に対するポジティブな意見は学生 ル・リサーチの動向, 大学図書館に求める役割の変化を探っ より教員に多いようだが,教員たちも電子書籍の将来が明 ているので,教員の電子書籍に対する関心を知ることがで るいものであると見ているわけではない。 「5 年以内に電子 きる。 書籍はさらに普及するので,図書館で紙書籍をいつまでも 注記しておきたいのは,Ithaka S+R における医学部教 保存しておく必要はないと思うか」という質問に,自然科 員への図書館に関する利用調査はこの 2015 年が初めてで 学と社会科学の教員たちでイエスと答えたのは 20%のみ あり,詳しくは後に触れるが,電子書籍と電子ジャーナル であった。医学部の教員でも 35%に留まっている。同じ質 に対して医学部教員が異なる利用傾向を示していること 問を電子ジャーナルで聞いたときには,自然科学と社会科 だ。電子媒体では医学系タイトルが先行して多い現状で, 学の教員の 50%がイエスと答え,医学部の教員に至っては 興味深い報告といえよう。 60%近くが「紙雑誌を捨てても構わない」と答えていたの Ithaka S+R は,MDR というマーケティング名簿会社が だが 9)。 持つ米国大学教員の電子メール・リストから所属大学を 8 ではなぜ電子書籍は電子ジャーナルのように使い勝手が グループに分けて対象者を選んだ 7)。そのグループは,人 良くないのか。スクリーンで読みづらいという問題は,電 文学・社会科学・自然科学のみの 4 年制大学,より広い分 子ジャーナルでも同じだが,ジャーナルの論文はいくらで 野の学部を有する 4 年生の大学,修士課程(それぞれ小, も印刷できるし,アクセス制限もない。対して電子書籍は 中,大規模に分けた)を有する大学,博士課程を有する大 印刷制限があり,無制限の契約をしておかない限り,同時 学,研究に重点を置いた大学,高度な研究に重点を置いた アクセスは 1 ユーザーから 3 ユーザーに限られる。ピッツ そして MRD リストの 116 万 6,542 大学という区分である。 バーグ大学図書館の場合,参考図書は無制限のアクセスで ― 21 ― 情報の科学と技術 67 巻 1 号(2017) 購入することが多いが,通常は教員が授業のリザーブにす (Application Programing Interface)を公開した。そして るためなどの理由でリクエストしない限り,1 ユーザー購 NetLibrary,Project MUSE,JSTOR,SAGE,ELSEVIER, 入が基本である。また紙書籍の場合,貸出しは 1 セメスター GALE,Willy,De Gruyter,さらに大手の大学出版社の (教員と院生の場合)であり,他の誰かがリコールしない限 電子図書タイトルも GOBI-3 で発注できるようになった。 り貸出し期間更新は半永久的である。それに対し,電子書 使い慣れている GOBI-3 で電子書籍の見計らい購入と単品 籍の貸出期限はわずか 2 週間に設定されているタイトルが 購入も行えるようになり, 日常業務は簡単になったのだが, 多い。 じつは GOBI-3 では購入できないタイトルもまだまだあ 図書館利用者の大多数を占める学生, 特に学部生たちは, り,利用者からの購入申請を受け取ったとき,そのタイト 本であろうが雑誌であろうが,すでに紙媒体のものは読ま ルの出版社が GOBI-3 にない会社であることがある。修 ない傾向にある。使うのはほとんど電子ジャーナルの論文 士・博士課程の学生の要望は,そうしたタイトルが多い。 だけである。どうしても本を使わなければならないときに, そのさいは直接出版社に購入を申し込まなければならな まだ紙書籍を好むのだ。と言うことは,電子ジャーナルの い。まず出版社がオファーしている電子書籍のタイプを調 ように電子書籍が使いやすくなれば,使われなくなってい べる。ユーザー名とパスワードでアクセスする電子書籍は る学術書という資料の宝庫が,また使われ始めるのは明白 購入しない方針であるため,利用者には申し訳ないが,図 である。図書館員として出版社やプラットフォームの提供 書館向けの IP アクセスの電子書籍がないときは購入でき 会社に要望を伝え続けることが肝要である。 ないと伝える。もし紙書籍があればそちらを購入する。 3.1.2 ProQuest が Ex Libris を買収した影響 3.電子書籍購入に関する図書館員の作業変化 ProQuest の Ex Libris 買収は 2015 年 12 月に行われた。 ピッツバーグ大学図書館の電子書籍のタイトル数は Voyager,Primo,Summon など広く使われている図書館 1,368,110 冊で,紙書籍の所蔵は 5,854,062 冊である(2015 システムとディスカバリー・ツールは Ex Libris の商品で 年の調べ)10)。電子書籍の購入には,見計らい購入と,サブ ある。ピッツバーグ大学図書館では図書館システムの古株 ジェクト・ライブラリアンによる選書,教員や学生からの Voyager と Summon を使っている。Voyager は 1990 年代 要望(リクエスト制度)による単品購入(500 ドル以上の に開発された後に Ex Libris が購入した製品だ。そろそろ 本は許可制,紙書籍も同じで 1 タイトルが 500 ドル以上の Voyager から別の図書館システムに変更することが話題に 本は許可制)を並行し,そして DDA/PDA に設定した電子 なってはいたが,購入,貸出,書誌情報を全て管理してい 書籍タイトルも加えている。 る図書館システムを入れ替える大仕事のため,なかなか腰 インディアナ州のパデュー大学図書館が 3 年間 が上がらなかった。予算がかかるし,5 年計画の図書館改 (2011-2014)の DDA/PDA タイトルをモニターして正価 装に着手したところである。それが ProQuest の買収によ との差額で節約効果を調べ,さらにサブジェクト・ライブ り,Voyager システムのアップデートは未定らしく,真剣 ラリアンが選書した電子書籍との利用率を比較したレポー な検討を迫られることになった。 トによると DDA/PDA によるメリットが証明されている。 しかしながら同レポートでは,修士や博士課程の学生への 3.2 電子書籍モデルに対しコンソーシアムが働きかける 資料提供は,サブジェクト・ライブラリアンによる選書と 北米には公立・学術合わせて約 3 万館の図書館があり, 購入が堅実なサポートであること,サブジェクト・ライブ 図書館をつなぐコンソーシアムが 300 以上,図書館によっ ラリアンが選書したタイトルを DDA/PDA 式で購入する ては複数のコンソーシアムに所属して資料購入や ILL で協 ことで節約効果を高められると指摘している 11)。 力している 12)。電子ジャーナルの論文はドキュメント・デ リバリー(DD)で他校の研究者とも共有できるのに,電 3.1 電子出版ビジネス再編成による予想外のシナリオ 子書籍は,契約によっては一章のみ DD 出来る場合もある それでは電子書籍の購入作業が,図書館員の仕事をどの が,まだ丸ごと ILL できない。電子書籍の出版社との契約 ように変えたかレポートしてみよう。資料購入のしくみは により ILL 不可とされているからだ。さらに紙書籍は 図書館の舞台裏であって,その事情によって利用者が求め OCLC データで所蔵館との貸借が管理できたが,電子書籍 る資料を速やかに提供することが影響をうけてはならない は OCLC データに所蔵館が全て登録していないから ILL のだが,EBSCO と ProQuest の電子出版ビジネス買収の に対応できないという事情もある。そのような出版社・ア 影響は見逃せない。 グリゲーター・書籍販売主導の電子書籍の販売形態につい 3.1.1 EBSCO が YBP を買収して GOBI の API を公開 て,図書館からの視点と提言を加えようというコンソーシ 2015 年春,書籍販売会社 Baker and Taylor が子会社 アムの動きが活発化している。 YBP(Yankee Book Peddler, Inc., ヤンキーと呼ばれてい 3.2.1 シャーロット・イニシアティブ る)を EBSCO へ売却した。ピッツバーグ大学図書館をは このプロジェクトが 2015 年 1 月から始まっている。こ じめ多くの大学図書館が,ヤンキーのオンライン・オー れはノースカロライナ大学シャーロット校図書館の蔵書構 ダー・システム GOBI-3 を使って英語の紙書籍の見計らい 築担当司書エリザベス・シラー氏が中心となり,メロン財 購入と単品購入を行っている。EBSCO は GOBI-3 の API 団の助成金を得て,図書館員だけでなく情報学や IT の研 ― 22 ― 情報の科学と技術 67 巻 1 号(2017) 究者を含めて 56 名のリサーチ・チームを結成,2017 年 4 て EPUB で出版していただきたい。 月に成果を報告する予定で活動を続けている。その目標は 2009 年の経験以来,横書きが出てくるか EPUB になる 未発達な電子書籍の購買,契約形態を研究することによっ まで日本語電子書籍を買うことは控えていたのだが,2015 て,DRM(Digital Rights Management,デジタル著作権 年に EBSCOhost が日本語電子書籍の DDA を始めたので 管理)からの解放によりアクセスの内容制限や時間制限を 導入してみた。英語電子書籍は DDA が盛んで,価格が紙 なくし,図書館の大事な社会的役割である資料の収集と共 書籍の 2,3 倍でもスペースや管理の便利を考えて DDA が 有,そして未来への保存を電子書籍でも可能にしていく方 奨励されているのだ。約 6,000 タイトルの日本語電子書籍 法を探り提言することにある 13)。 が DDA 可能だったが,日本の大学向けの教科書やとても 3.2.2 電子書籍 ILL を目指したオッカム・リーダー・プロ 古いものが多かったので 600 タイトルに絞って DDA を始 ジェクト めた。しかし 1 年間で利用者が購入しのはたったの 5 冊 テキサス工科大学とハワイ大学マノア校,そして西海岸 だった。 の 大 学 図 書 館 を 中 心 と し た コ ン ソ ー シ ア ム , GWLA EBSCOhost NetLibrary の日本代理店は紀伊国屋書店 (Greater Western Library Alliance)が共同で,2014 年に である。丸善雄松堂も海外の教育機関向けに日本語電子書 電子書籍の ILL を可能にするシステム, オッカム・リーダー 籍を提供しているが,DDA はまだなく,1 点ずつの購入に (Occam’s Reader)を使った 1 年間のパイロットプロジェ なっている。2016 年 10 月には EBSCOhost NetLibrary クトを立ち上げた。 が 9,766 タイトル 14),丸善雄松堂が 24,134 タイトル 15), オッカム・リーダーとは,テキサス工科大学の ILL 司書 両社とも毎月タイトルを追加している。丸善雄松堂の電子 だった(現在は同大の教授)ライアン・リツィ氏が中心と 書籍は半数以上(12,586 タイトル)が理工学・生命科学・ なって開発したソフトで,OCLC の ILL システム,ILLiad 医学・農学で残念ながら日本研究にはほとんど関係ない。 に追加(add-on)することによって,電子書籍を ILL 出 残りの 11,557 タイトルは人文学・社会科学・総記だが, 来るようにしたものである。GWLA 事務局が Springer の 多くは日本の大学生向けの教科書的内容で,海外の日本研 協力を取り付け,メンバー33 館が所蔵する Springer の電 究にはほとんど向かない。 子書籍の ILL を試験的に始めた。プロジェクトでは電子書 EBSCOhost NetLibrary の日本語電子書籍リストは,紀 籍提供会社の利益を侵害しないように,ILL した電子書籍 伊国屋書店サイトからダウンロードするエクセルファイル はイメージとしての PDF でやり取りし,検索やハイライ なので,検索したり分野で絞ったりできるウェブページの ト,ライブリンクの機能はなく,印刷も出来ない仕組みだっ Maruzen eBook Library ようにタイトルを分析すること た。また貸出期間は 2 週間とした。パイロット・プロジェ が難しい。 クトが終了した 2015 年には図書館界で様々な賞を受賞し 私たち北米の日本研究司書は,毎年予算に合わせて 300 た。しかし本格施行には、参加図書館が購入している多様 から 2,000 冊の紙書籍を購入している。日本研究者が必要 な電子書籍提供会社の合意を得なければならないこと、使 とする書籍が沢山あるのだから,海外の需要も汲みあげて いやすさの向上も図らなければならないといったハードル 電子化して頂きたい。 があった。現在、GWLA とハワイ大学マノア校はこのプロ 5.あとがき ジェクトから離れたが、テキサス工科大学がバージョン 2.0 を開発し、独自に運営して参加館を募っている 14)。 この度の執筆に際して、編集委員の方々のご尽力、およ び北米の同僚から数々の有益な提言を頂いたことにお礼申 4.日本の電子書籍への要望 し上げる。取材過程で、大学図書館の電子書籍コレクショ 日本の電子書籍に対する要望をこの機会に遠慮なく書か ンについて、国境を越えた情報共有と協力も可能かもしれ せて頂く。フォーマットと内容への要望である。 ない、という印象を強く受けた。 2009 年に電子資料の購入に限定したファンドを頂いた 参 考 文 献 ので EBSCOhost NetLibrary から 80 タイトルの日本語電 子書籍を購入した。1960 年代から 70 年代に出版されたか 01) Ebook Usage in U.S. Academic Libraries 2016. Library Journal. なり古いシリーズだが現代史資料(みすず書房)を全巻購 http://lj.libraryjournal.com/downloads/2016academicebook 入した。すでに紙媒体で全巻所蔵しているが,全文検索機 survey/ [downloaded 2016-10-1] 能が活用されるだろうと思ったのだ。キーワードでの全文 02) Wolff, C., Rod, A. and Schonfeld, R. Ithaka S+R US Faculty Survey 2015. 検索はとても便利だ。左コラムに検索結果がでて,クリッ http://www.sr.ithaka.org/publications/ithaka-sr-us-faculty- クひとつで掲載ページに跳んでくれる。しかし縦書きなの survey-2015 [accessed 2016-10-1] で,いちいちスクロールしなければならず,読みづらい。 03) Appendix A. Profile of Respondents. Ebook Usage in U.S. Academic Libraries 2016. Library Journal. p.79-89. 前掲 同じ PDF でも中国語電子書籍は横書きが多く,この不便 04) Executive Summary. Ebook Usage in U.S. Academic はない。縦書きのデジタルデータを横書きに変換すること Libraries 2016. Library Journal. p.3. 前掲 05) Figure 6. Which categories of ebooks does your library は出来ないものだろうか。また縦書きのままでも 2 段組み currently offer students and faculty? All academic にしてもらえたら大分読みやすくなると思うのだが。そし ― 23 ― 情報の科学と技術 67 巻 1 号(2017) libraries, 2016. Ebook Usage in U.S. Academic Libraries 12) American library directory access 2016. Library Journal. P.6. 前掲 http://www.americanlibrarydirectory.com 06) Figure23. What hinders students/faculty from using your [accessed 2016-10-9] library s ebooks? Ebook Usage in U.S. Academic Libraries 13) Carolina–Charlotte. Charlotte Initiative., J. Murry Atkins 2016. Library Journal. p.48 Library, University of North 07) MDR’s College and University Faculty Email. http://guides.library.uncc.edu/charlotteinitiative http://lists.schooldata.com/market;jsessionid=02AD0CBF1 [accessed 2016-10-9] 63A8F01C43911EAFB0838DA?page=research/datacard&i 14) Occam’s Reader http://occamsreader.org/ d=273297 [accessed 2016-10-2] [accessed 2016-10-1] この項はテキサス工科大学教授のラ 08) Wolff, C., Rod, A. and Schonfeld, R. Appendix: イアン・リツィ氏、ハワイ大学マノア校 ILL 司書のナオミ・ Methodology. Ithaka S+R US Faculty Survey 2015. チョウ氏、GWLA 事務局のジョニ・ブレイク博士への電話イ p.76-82. 前掲 ンタビューによる。 09) Wolff, C., Rod, A. and Schonfeld, R. Ithaka S+ R US 15) 和 書 全 タ イ ト ルリ ス ト ( 2016/09/28 更 新 ), EBSCOhost Faculty Survey 2015. p.11-12.前掲 NetLibrary eBook 10) Fact Book. University of Pittsburgh. 2016 http://www.kinokuniya.co.jp/03f/oclc/netlibrary/netlibrary_ http://ir.pitt.edu/wp-content/uploads/2016/09/Fact-Book-20 ebook.htm [accessed 2016-10-10] 16-3.pdf [accessed 2016-10-8] 16) Maruzen eBook Library 11) Ward, Suzanne M. Use and Cost Analysis of E-Books: https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/Top/wicket:pageMapNa Patron-Driven Acquisitions Pan vs. Librarian-Selected me/wicket-0 [accessed 2016-10-10](「認証しない(ゲスト利 Titles, Academic E-Books Publishers, Librarians, and 用)」のボタンをクリックすると丸善の提供する電子書籍リス Users 2016, pp.127-144 トにアクセスできる) Special feature: Current States of E-book. Current Trends of eBooks Services at Academic University Libraries in the United States of America. Hiroyuki Nagahashi Good, Kazuyo Good (University Library System, University of Pittsburgh, 207H Hillman Library 3960 Forbes Ave., Pittsburgh, PA 15260) Abstract: The expected role of university libraries is changing from developing collections to increasing digital resources as well as offering more study space to support undergraduate students. Most of us have expected the increase of ebooks to facilitate the transformation and improve user supports. However, the environment of ebook services in recent years seems different from our expectation;students still prefer printed books, ebooks are still very difficult to read, and the ebook budget is decreasing. This paper examines two recent national surveys to clarify challenges to ebook services. This will be followed by a discussion of the efforts to tackle the challenges at the University of Pittsburgh Library. Last but not the least, this paper also offers some suggestions for the Japanese ebook industry. Keywords: Ebooks services / ebook usage / ebooks / digital resources / Unites States / University libraries / user survey / students survey / faculty survey / Ithaka S+R / Library journal ― 24 ― 情報の科学と技術 67 巻 1 号(2017)